2018年5月22日火曜日

ことばとこころ

1年以上もブログをほったらかしました。色々と理由はあるのですが……まぁそれはいいです。
ホースソルジャー(12 Strong)を観ました。911以降の最近のグリーンベレーが映画になっている姿にたいそう感動しました。個人的なこの映画の意義として、最近のグリーンベレーの姿を描いているということが挙げられると思います。具体的にはPSYOPS、いわゆるハーツ・アンド・マインズ……派遣先の現地住民の心をつかむことです。映画の中のドスタム将軍や彼の率いる兵と交流するODAの隊員を見ると、それが非常に良くわかったと思います。
そんなODAはどこからハートをつかむかというと、言語と文化からです。
culture and foreign language competencies for many military personnel are more than important―they are necessary for mission accomplishment. “ - JSOU Cultural and Linguistic Skills Acquisition for Special Forces pp.3 [1]
言語というのは、その話者にとってアイデンティティを形成する最も重要な要素の一つです。


ODAのメンバーとなるためにはSFQC(Special Forces Qualification Course)、いわゆるQコースをパスする必要があります。SFQCにはPhase I~Vまでの過程があり、Phase IとIII~Vまでは基本事項や実際の戦術、MOS18シリーズ、非対称戦闘の方法などを会得する過程となっています。今回問題にするのはPhase IIのLanguage and Cultureという項目です。

[2]

このフェーズで学ぶ言語は難易度によって二分されています。
カテゴリーI/IIではフランス語、インドネシア語、スペイン語
カテゴリーIII/IVでは中国語、韓国語、タガログ語、タイ語、ポーランド語、チェコ語、ハンガリー語、ロシア語、アラビア語、ダリー語、パシュトゥー語、ペルシア語、トルコ語、ウルドゥー語
カテゴリーI/IIを習得する隊員は18週、カテゴリーIII/IVを習得する隊員は25週の間教育を受けます。カテゴリーIII/IVでの中東地域への力の入れようが目に見てとれますね。この中であまり聞きなれない言語について解説を入れます。
ダリー語:ヴァリアントが複数存在するペルシア語のひとつの形であり、アフガニスタンの公用語の一つ。
パシュトゥー語:主にアフガニスタンで話されるイラン語派の一言語。アフガニスタンの公用語。ウルドゥー語:パキスタンの公用語。印欧語族の言語にペルシア語やアラビア語の影響を受けながら出来上がった言語。

この言語過程を無事卒業しその後の戦闘訓練もパスした隊員は、習得した言語に対応するAOR(area of responsibility)を持つ各SFGに配属されます。厳密ではないですが、アジア系の言語を習得した隊員はSOCPAC管轄下の1st SFGへ、中東地域の諸語を習得した隊員はSOCCENT隷下の5th SFGへ、フランス語を習得した隊員はSOCAFRICA隷下の3rd SFGへ、スペイン語を習得した隊員はSOCSOUTH隷下の7th SFGへ、東欧諸語を習得した隊員はSOCEUR隷下の10th SFGへ……というふうにおおまかに配備されるようです。厳密ではないと書いた意味ですが、例えば3rd SFGの管轄であったアフリカ全土を3rd SFGだけが担当するのは広大すぎるということで、アフリカ北部のマグレブ地方は10th SFGが担当することになるなど(恐らく映画”13hours”で描かれたベンガジの事件に起因する)、微妙なAORの変更などがあるからです。また予備役である19th SFGはSOCPAC、20th SFGはSOCSOUTHへと派遣されるようです。
当然のことながら、人種のるつぼと呼ばれるアメリカなので、各地域に適した人種が各SFGに配置されることが多いです。例えば1st SFGならアジア系が多い(実際にRonin TacticsのTu T Lam氏は2000年代初頭に沖縄の1st SFG、C/1/1(CIF)にいたようです)ですし[3]、7thならラテン系の人や、黒人(スペインやポルトガルによる奴隷貿易の関係で連れてこられた関係のようです)が中心になっているという感じがあります。
個人的にアメリカにおけるラテン系の人=ラティーノ(最近はヒスパニックよりもこちらの名称が使われることが多い)の数を見ると、7th SFGの言語コースはやや簡単になるのではという考えがあったのですが、調べているとやはりSOFREPの記事でそのような記述が見られました。
For the 7th SFG (Central and South America) this is relatively easy – Spanish and Portuguese are the major languages.” - Special Forces language training[4]
またsoc.milの公式ページには、なぜか7th SFGのみそのAORについての解説がされていたので引用しておきます。なんでこんなに7thの事を書くかというと、ラテンアメリカ諸国とそれに関するSpecial Operationsが自分の中でマイブームだからです。
The 7th Special Forces Group (Airborne) Area of Responsibility (AOR) includes the land mass of Latin America south of Mexico; the waters adjacent to Central America and South America; the Caribbean Sea, its 13 island nations, European and U.S. territories; the Gulf of Mexico; and a portion of the Atlantic Ocean. It encompasses 32 countries (19 in Central and South America and 13 in the Caribbean) and covers about 15.6 million square miles.[5]

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このようにグリーンベレーはその数の多さを生かし、世界中に派遣されています。そのことはQRFとしての役割を果たすのみならず、言語と文化という人間に関わることに深く関係しています。


References

Army National Guard 
https://www.nationalguard.com/special-forces-qualification-course

[1] Cultural and Linguistic Skills Acquisition for Special Forces: Necessity, Acceleration, and Potential Alternatives by Russ Howard
http://jsou.libguides.com/jsoupublications/2011

[2]INSIDE THE SFQC
http://www.specialforcesassociation.org/inside-the-sfqc/

[3]Ret. MSG Tu Lam (Army Special Operations, OIF, OEF Veteran) 
http://www.thevetsproject.com/the-blog/2017/5/22/sgm-tu-lam-army-special-operations-oif-oef-veteran

[4]Special Forces language training 
https://sofrep.com/58481/special-forces-language-training/

[5]http://www.soc.mil/USASFC/Groups/7th/7thSFGHomepage.html

[6]7th Special Forces Group (Airborne) Command Operations Brief
https://publicintelligence.net/7th-special-forces-group-airborne-command-operations-brief/